最初の作品価格をどう決めるか
作品に値段を付けるとき、最初にやることは、作品ごとに毎回悩むことではありません。
まず、自分の基準になる値段を決めることです。
いくらで売れそうか。
いくらなら怒られなさそうか。
いくらなら買ってもらえそうか。
そこから考え始めると、たいてい安くなります。
もちろん、高ければよいわけではありません。
でも、最初の価格を低く付けすぎると、あとで苦しくなります。
作品の価格は、一度出すと、簡単には下げられません。
ジャンルを変える。
素材を変える。
サイズを変える。
販売形態を変える。
版画やグッズとして別のラインを作る。
そういう理由があれば、別の価格帯を作れます。
でも、同じ作家が、同じような作品を、ある時期から急に安く売り始めると、以前に買ってくれた人は少し困ります。
あのとき買った値段は何だったのか。
次を待てば安く買えたのか。
この作家の価格は信じてよいのか。
そう見えてしまうことがある。
だから、最初の値段は、気持ち高めでよいと思います。
無理に高級に見せるという意味ではありません。
自分で説明できる範囲で、少し背筋が伸びる値段にする、という意味です。
基準単価を作る
まず、基準になる単価を作ります。
平面作品なら、号数で考えるのが分かりやすいかもしれません。
もっと細かくやるなら、面積でもよいです。
たとえば、自分の中で「1号あたりいくら」と決める。
あるいは「A4 くらいならいくら」「F6 ならいくら」と決める。
そして、面積が広くなれば、それに合わせて価格も上げていきます。
最初から完璧な計算式を作る必要はありません。
大事なのは、毎回その場の不安で値段を決めないことです。
基準がないと、同じくらいの作品なのに、ある日は2万円、ある日は8千円、次の展示では3万円、ということが起きます。
もちろん、作品ごとの違いはあります。
密度が違う。
制作時間が違う。
素材が違う。
額装が違う。
思い入れが違う。
それでも、まず土台がある方がよい。
価格は、ざっくり言えば、こう考えられます。
作品価格 = 基準単価 x サイズや面積 x 複雑さや素材の補正 平面なら、サイズや面積。
細密な作品なら、複雑さ。
素材費が大きい作品なら、素材。
額装するなら、額装。
立体なら、サイズだけでなく、置き場所、素材、焼成、型、運搬の負担も入ってきます。
この計算式は、作品を機械的に値付けするためのものではありません。
自分が迷ったときに戻る場所を作るためのものです。
最初の単価をどう決めるか
では、その基準単価はどう決めればよいのか。
一つのやり方は、好きな先輩制作者の作品を思い浮かべることです。
有名すぎる人でなくてよいです。
遠すぎる作家でなくてよいです。
自分が本当に好きで、少し前を歩いている人。
その人の作品を見て、自分ならいくらで買うかを考えます。
その価格を、作品の大きさで割ります。
たとえば、その人の F6 くらいの作品を、自分なら6万円で買うと思ったとします。
なら、かなり乱暴に言えば、1号あたり1万円くらいです。
もちろん、その人と自分は同じではありません。
展示歴も違う。
経験も違う。
技術も違う。
ファンの数も違う。
使っている素材も違う。
だから、その数字をそのまま真似する必要はありません。
でも、自分の目が「このくらいなら払える」と感じる価格を、作品の大きさで割ってみる。
これは、自分の価格感覚を作る練習になります。
価格は、空から降ってきません。
自分が何を高いと思い、何を安いと思い、何になら払えると思うか。
そこからしか、最初の基準は作れません。
安くしすぎない
若い制作者ほど、安くしたくなります。
自信がない。
売れなかったら怖い。
高いと思われたくない。
買ってくれた人に申し訳ない。
その気持ちは分かります。
でも、作品を安くしすぎると、買う人に親切なようで、未来の自分をかなり縛ります。
1000円で売った作品を、次の年に1万円にするのは難しい。
1万円で売った作品を、次の年に10万円にするのも難しい。
もちろん、まったく不可能ではありません。
でも、そこには説明が必要になります。
なぜ上がったのか。
何が変わったのか。
サイズか。
素材か。
展示歴か。
制作密度か。
販売先か。
価格を上げることはできます。
ただし、雑に上げると、買う人が混乱します。
だから最初から、少しだけ未来の自分を含めた値段にしておく。
今の自分には少し高い。
でも、これから続ける自分なら、ちゃんと背負える。
そのくらいがよいと思います。
ライスワークとライフワークを分ける
作品価格を考えるとき、もう一つ見ておいた方がよいことがあります。
それは、ライスワークとライフワークのバランスです。
ライスワークは、生活のための仕事です。
家賃、食費、税金、保険、交通費を払うための仕事です。
ライフワークは、制作活動です。
自分が長く続けたい表現、調べたいこと、作りたいものです。
この二つを、最初から同じ箱に入れすぎない方がよいです。
作品が売れて生活できるなら、それは強いです。
でも、最初から作品だけで生活費を全部まかなう前提にすると、価格も、制作も、かなり苦しくなります。
売れなければ生活できない。
生活できないから、安くても売りたい。
安く売るから、次も安くしないといけない。
安くしすぎるから、作るほど苦しくなる。
そういう輪に入ることがあります。
だから、作品価格は「生活費をすべて背負わせる値段」ではなく、「制作を続けるための値段」として考えてもよいです。
生活の土台は、別の仕事で支える時期があってよいです。
制作の値段は、制作の価値と継続可能性から決める。
この分け方は、逃げではありません。
むしろ、作品に生活の焦りを全部乗せないための分離です。
今はライスワークで生活を支える。
ライフワークとして制作を続ける。
作品価格は、安売りではなく、少しずつ育てる。
その順番でよい時期があります。
制作で生活できるかどうかは、大きな問いです。
でも、最初の価格を決める段階では、もっと小さく始めてよいです。
この値段なら、材料費を回収できる。
この値段なら、次の制作に戻せる。
この値段なら、買ってくれた人にも、自分にも説明できる。
この値段なら、未来の自分の価格を壊さない。
まずは、そのくらいの基準でよいと思います。
グッズは原価から逃げない
原画とグッズは、別の考え方でよいです。
ポストカード、ステッカー、ZINE、アクリルキーホルダー、トートバッグ。
こういうものは、原価があります。
印刷代。
材料費。
梱包。
送料。
イベント出展料。
在庫リスク。
作る時間。
まず、そこを見ます。
そのうえで、大手の商品価格と同じにしなくてよいです。
少量生産です。
あなたの絵だから買われます。
あなたの展示で見たから買われます。
大量生産の商品と比べて、少し高くなるのは自然です。
私がギャラリー巡りを始めた頃は、ポストカード1枚100円の感覚がありました。
でも、もう少し高くてもよい時代だと思います。
紙も、印刷も、送料も、場所代も、人件費も上がっています。
インフレの時代です。
大手の商品価格の2倍を超えたら絶対に高い、とは言い切れません。
ただし、原価を見ずに気分だけで値段を付けるのは危ないです。
グッズは、売れるほど赤字になる価格にしない。
在庫を抱えても生活が壊れない量にする。
利益が小さすぎて、続けるほど苦しくなる値段にしない。
ここは、夢ではなく算数で見た方がよいです。
価格は、作品の説明の一部である
値段は、作品の横に置かれる小さな説明でもあります。
これは一点ものです。
これは版があります。
これは原画です。
これはグッズです。
これは額装込みです。
これは小さいけれど、かなり時間がかかっています。
これは大きいけれど、軽やかに描いたものです。
価格は、そういう情報を少しだけ持ちます。
だから、安ければ親切、高ければ偉そう、という話ではありません。
自分が続けられること。
買ってくれた人が後から不安にならないこと。
作品ごとの違いを説明できること。
未来の自分の値段を壊さないこと。
最初の作品価格は、そのために決めます。
まず、自分の基準単価を決める。
好きな先輩制作者の作品を、自分ならいくらで買うか考える。
それを大きさで割って、自分の基準を作る。
そこに、面積、複雑さ、素材、額装、グッズなら原価を掛け合わせる。
そして、少しだけ高めにする。
それは、見栄ではありません。
続けるための余白です。
